2014年12月23日火曜日

蘇る「読み」の話芸、講談 (『EテレハートネットTV障害福祉賞(2)芸が与えてくれた光』)

「講談と落語の違いは何ですか?」と聞かれたことがあります。

このとき、スタイルや演目、師匠と先生という敬称の違いなどを挙げて説明をしながら、
なにか決定的に分けるものがあったはずなんだけどなあ、
と釈然としない心持ちでした。



つい先日名古屋の古書店『シマウマ書房』さんで見つけたのが、
1977年に出版された「話藝-その系譜と展開 (三一書房)」


巻末の座談会(郡司正勝、堀上謙、南博、永井啓夫)の中に、
興味深い談話がありました。





以下引用

堀上 昔から講談は読み、落語は話し、浄瑠璃は語ると言いますが、読む、話す、語るというこれらの朗踊芸が、こんにちいうところの「話芸」の基本になっているわけですね

中略

永井 読むという芸は、実に難しいと思いますよ。

郡司 範囲が非常に広い。我々は、活字しか読まないと思っているけれども、活字でなくとも、読むんですね。つまり、声を出す、ということ、人の心を読むこと、なにもないところから読みとること、などいろいろでてくるわけです。読みが深い、ということになると、解釈することにもなるから、批判することも、読むことになる。「太平記読み」などはそうですね。

 「読めた」というのは、真相がわかった時ですしね。

永井 今日の講談で、修羅場をやる。いいところで中断して、現代のくすぐりを入れる。お客はどっと笑いますね。これで講釈師は、受けた、と思ってしまう。つまり今の講談は、読みをやめてしまって、話に近づいているんですね。滑稽噺に近づいていますね。これは取り返しのつかないことだと思いますよ。田辺南洲さんあたりはまだきちんと演っていますが、今の若い芸人さん達には、あれが、耐えられないんですね。棒読みだと思ってしまう。

…引用終わり

講談は読み、落語は話し、浄瑠璃は語る。
そう講談は読むものでした。
しかし定義の幅が広い「読み」という言葉。「読みの芸」とはいかなるものか。

この本の「落語・講談」という章では講談の田辺南洲
落語家の八代目林家正蔵(元こぶ平さんの当代は九代目)が
対談形式で落語と講談について解説をしています。

南洲 講談で一番大事なことは、語るとはいわず読む、と申します。語るというと、意味が違ってまいりまして、「語ってはいけない、読め」といわれます。つまり、本を前におきまして、文章を皆さんに、聞いてもらったわけです。読んで、解説して、正に講釈をしたわけです。そういう伝統を引いていますから、決して語るとは言いません。読みます。


「読み」というのはまずテキストがあると。
それが前提で、それを目の前の人に伝えるものということ。
座談会で郡司正勝は「活字でなくとも読む」と言う。

うーむ、こりゃあ考え出すと色々とムズカシイ。













しかし写真からも伝わってくる田辺南洲の端正な所作。
名前が変わってるとしても、顔の見覚えぐらいはあってもよさそうなのだが。

と、それから十日ばかりたったある日のこと、
(前置きが長くてスミマセン)

Eテレの福祉番組ハートネットTVで、
『障害福祉賞(2)芸が与えてくれた光 -東京・貝野光男さん-』
が放送されていました。(番組のページ)

TV画面を見て、思わず身を乗り出しました。
「田辺南洲!」

NHK障害福祉賞は障害のある人や障害者を支える人がつづった
体験手記に送られるもので、番組では優秀賞に選ばれた
貝野光男さんの日常を取材していました。

史上最年少で芸術祭優秀賞を受賞し、
真打の講談師、『悟道軒圓玉(ごどうけんえんぎょく)』として活躍していた貝野さんは、
25年前に交通事故に逢って高次脳機能障害となり、
講談の世界を去ったというのです。

(田辺南洲は悟道軒圓玉の二つ目時代の名前。)

高次脳機能障害になった貝野さんは、
注意力や記憶力を失い、300以上の講談の持ちネタも全て忘れてしまい、
現在も買い物で商品を選び出すのも一苦労という状態。

当初はなかなかうまくいかなかったリハビリ。
しかし講談の話をするときだけは感情が豊かになることに注目した医師は、
失われた記憶力のリハビリとして、講談の稽古をプログラムに入れます。

貝野さんは過去の自分の講談を録音したテープを使って、
30分の講談を1分ずつ分けて憶えなおす形で稽古を進めていきます。
1日中聞き続けて、1つの演目を記憶するのに半年。
そして事故から7年後、高座に復帰を果たすまでに。

芸を失うということ、その絶望は筆舌に尽くしがたいはず。
「おれの師匠は講談界にはいない」
と言い切るほどの自負の持ち主ならば尚更。

それをまた一から積み上げていく。
インタビューでさらりと言った「芸人の業」という言葉が肚に、重い。

「芸は身の仇」ともいい「芸は身を助ける」とも言うものの…


番組の最後に悟道軒圓玉(貝野さん)の
講談「大石内蔵助東下り」を聞くことができました。

これが「読み」。

洗練された話芸は違和感なく体に入ってくる。
それは落語でも同じ。
しかし「読み」は話芸のなかでも、
聞き手が読み手にどれだけ自分を委ねられるかで、伝わりかたが変わる。
すぐにそれがわかりました。

必死に聞く、聞いてあげるのではなく、「読み」に心をゆだねる。
逆に言えば、聞き手をそのような状態に導くのが「読み」の妙。
私にとっては懐かしくも新しい講談でした。

これは絵本などの「読み聞かせ」と本質は同じだと思います。
読み聞かせも、話の途中で読み手が余計なことを言うのはタブーです。

不遜僭越は承知の上で、悟道軒圓玉の「読み」が蘇った、と言いたい。

圓玉さんはもちろん私のことは知りません。
しかし例えTV画面を通したものであっても、
圓玉さんとその「読み」に身をゆだねた聴衆との間では、
蘇ったと言っていい。

「読み手」と「聞き手」、どちらが欠けても成立しない講談という話芸。
私は心底いい読みだなあ、通ってでもまた聞きたい、
この「読み」に心をまかせてみたいなあ、と思ったわけです。

ドキュメンタリーを通して貝野さんの生きざまに心を打たれましたが、
そのことは別にして、私を惹きつけてやまないのは悟道軒圓玉の「読み」。
それは個性を超越した芸。
今はこういう本当に安心して聞ける芸が少ないような気がします。

時代によって「芸」は変わる。
是非を問うのは愚かなことかもしれません。
すべては好みの問題なのかもしれません。

それでも、本質が変わる境界というものがあります。
そこだけは見落とさないようにしたいものです。

それにしても話芸の地平というものはつくづく果てしない。

もし機会があれば圓玉さんの高座をまた拝聴したいものです。

2014年12月6日土曜日

12月の落語講座のお知らせ

12月17日(水)、12月18日(木)は背中家腰楽の落語講座がございます。

今回でこの講座も丸3年(36回目)になります。早いものです。

レジュメ、プレゼン、噺にまつわるお楽しみイベントと、
噺そのもの以外の部分でも落語にどう親しんで頂くか
更新し続けることが出来たのも、足を運んでくださった方々のおかげです。

「場」と「人」に恵まれたからこそ、
自分のような芸人でない人間が、演じ続けることが出来たのだと思います。

今後ともよろしくご贔屓の程お願いいたします。

さて先月のお話は廓噺「品川心中」でした。

江戸から伸びる各街道の一番目の宿、品川、(内藤)新宿、板橋、千住、
これらをまとめて「四宿」と呼びます。
旅人や江戸から足を伸ばして遊びに来るものも多いことから、
江戸時代には遊びの場として栄え、中でも品川は、かの吉原の向こうを張るほど。

そんな品川での心中騒動を描いたこのお話。

どこか底暗いイメージのある「心中もの」も落語となると、もう暢気暢気。
とにかくアタクシも大好きなお話。

今回、お話後半で親分の家で賭場が立っているシーンで出てくる
(サイコロ博打をしているとするパターンも多いのですが)
「おいちょかぶ」をお楽しみイベントとして開催いたしました。

通常の花札でもできるのですが、初めての人がすぐわかるように
株札という専用の札を今回は使用。(先月の記事)

なかなかに好評を得まして、懲りずにちょくちょく
「江戸の遊び」をやって参りたいと思います。


さて年の瀬も迫って参りましたところで、今月は「人情噺」でございます。
小学3年生の時買った3枚目の落語のレコードに入っていた演目で、
以来ずーっと好きなお話なんです。流石に子どもの頃はやりませんでしたが…

一昨年は「子別れ」、昨年は「文七元結」ときまして、今年はどのお話になりますか。

背中家腰楽の落語講座では
「落語はちょっとむずかしそうで…」という方も、
「あらかた知っているよ」という方も、
よりお楽しみ頂けるように
レジュメ、プレゼンテーション付きの落語をやらせて頂いております。


ホロリとくる「泣き笑い」の人情噺、ご期待ください!

12月17日(水)はJR岡崎駅より徒歩五分
様々な講座を開催しているこちらで。

場所  暮らしの学校 (JR岡崎駅徒歩5分)

日時  12月17日(水) 10:30~11:30

電話  0120-511-533

WEB  暮らしの学校(講座ページ)


12月18日(木)は、1階は特製自家焙煎コーヒー店、
2階は「ナマケモノ大学」を開催しているコチラにて


場所  喫茶スロース (JR蒲郡駅より徒歩1分)

日時  12月18日(木) 20:00より 

電話  050-3598-6745

WEB  http://ameblo.jp/slothcoffee/

2014年11月11日火曜日

11月の落語講座のお知らせ

11月19日(水)、11月20日(木)は背中家腰楽の落語講座がございます。

前回のお話は「井戸の茶碗」でした。
登場人物が善人ばかりで嫌なところが無いと、人気の高いお話です。

しかし以前、この話は最後で嫌な気持ちになると話してくださった方がいます。
終盤の場面で、女性がお金と交換されているようで気分が悪くなると。
良い人ばかりが出てくるだけに、そこが目立つと仰るのです。

なるほど、これは暢気にしていてはいけません。

常識は時代と共に変わります。
昔の価値観ではあたりまえのことでも、今では非常識なんてのがいくらもあります。
誰かの「不快」が誰かの「快」なんてこともあるわけですが、
初めての落語で嫌な気持ちになったら、色々といけません。次は無いですし。

そこでアタクシは古典落語においては「江戸時代」という装置
をきちんと発動させることを心掛けています。

心置きなくお話の世界を楽しんでもらうために、観客と
お話の「距離」の調整装置としての「江戸時代」。
つまり「今の話」となると不快で受け入れがたいけれども、
「(江戸時代の)昔の話」なればこそ受容出来ると。

「江戸時代の話」として伝わるためには、
江戸のことばや武士のたたずまいが、それらしいものになっているかどうか、
細部に気をつけなくてはなりません。

そうしたセオリーに加えて、
「初めて聞いた人が江戸時代の話だとみなすことが出来るお話
を更新し続ける必要があります。
時が経つにつれて(そして世代間によっても大きく違う)
「江戸時代のイメージ」は変わっていくのですから。

後は演者の意識も大事なんでしょうね。
自分の言葉が、自分の心のどの部分から、どの深さから発せられているのか。
見ている人の心の同じところに響いても大丈夫なのか。

今の話に改変することで遠くなる話。
江戸の話にすることで近くなる話。
演者と噺、演者と観客。
つくづく「距離」を大事にしなきゃあいけないなあ、と勝手に思っております。

と、毎度おなじみのややこしいお話をしたところで講座のお知らせ。

今月のお話は「廓噺」でございます。廓噺とは遊廓での遊びにまつわるお話。
有名な吉原を「北国(ほっこく)」、品川を「南(みなみ)」なんていいまして、
東海道第一番の宿駅である品川は、遊びの場として大変栄えたそうでございます。
そんな品川で起きる騒動を描いたお話。

また今回はお話の中で昔の遊び「おいちょかぶ」の場面が描かれます。




おいちょかぶはブラックジャック
の日本版といえる遊び。



写真は任天堂の『株札』





というわけで今月も講座終了後にお楽しみイベントを開催予定です。
(手が後ろに回る形のものではありませんからご安心を)

背中家腰楽の落語講座では
「落語はちょっとむずかしそうで…」という方も、
「あらかた知っているよ」という方も、
よりお楽しみ頂けるように
レジュメ、プレゼンテーション付きの落語をやらせて頂いております。


とても暢気で楽しいお話ですから、どうぞご期待ください!

11月19日(水)はJR岡崎駅より徒歩五分
様々な講座を開催しているこちらで。

場所  暮らしの学校 (JR岡崎駅徒歩5分)

日時  11月19日(水) 10:30~11:30

電話  0120-511-533

WEB  暮らしの学校(講座ページ)


11月20日(木)は、1階は特製自家焙煎コーヒー店、
2階は「ナマケモノ大学」を開催しているコチラにて


場所  喫茶スロース (JR蒲郡駅より徒歩1分)

日時  11月20日(木) 20:00より 

電話  050-3598-6745

WEB  http://ameblo.jp/slothcoffee/

2014年11月1日土曜日

「めくり」問題はこれで解決!(印刷編)

前回の『「めくり」問題はこれで解決(プリンター編)』からの続きものでございます。

「全然解決していないじゃないか」とのお叱りに反省しきり。今日こそ解決いたします。

前回はワードでの文字入力でつまづいてしまいました。
他のワープロソフトを導入するという選択肢もあったのですが、
また余白の設定などでうまくいかないと癪なのでやめました。

結論としては、「画像に変換して印刷する」ことに。

ちなみにここからは私が導入しているソフトウェアを使った、めくりの作り方になります。
同様の機能を持つソフトでしたら、問題なくできると思いますし、
もっと簡単な方法もあるかもしれません。

とにかくアタクシのやり方はといいますと…

①名刺づくりなどで重宝していた『ラベル屋さん』(フリーソフト)を起動。
適当な紙サイズを選択して(勘亭流フォント)文字入力(「背中家」は少し小さくしてます)。






(ラベル屋さんは文字間隔を調整するときの操作が楽です)







②PDF形式で出力
使っているのは『CubePDF』(フリーソフト)。
導入するとプリンター設定で「CubePDF」というプリンターが選択できるようになります。
(もちろんword等でもPDF出力が可能)
印刷ボタンを押すと「CubePDF」が起動しますので変換ボタンを押します。




















変換するとPDF形式で出力され「AdobeReader」が起動します。
※2015年1月追記
(この時点で出力するファイルタイプをJPEGにして、③のJTrimで加工するほうが楽です)

















左上の[編集]⇒[スナップショット]で、両脇の空白部分を除いて
文字部分のみを選択して切り取ることが出来ます。
このとき表示倍率が低いと印刷時に文字がぼやけるので、
一旦50%程度で全体を表示して選択し、
その後倍率をクリックして任意倍率(200%以上がオススメ)を入力します。
右クリックして[選択したグラフィックをコピー]。

③ペイントソフトを起動。
使用したのは「JTrim」(フリーソフト)。
[編集]⇒[貼り付け]で切り取った画像を貼り付けます。
[ファイル]⇒[印刷プレビュー]でこのように表示されます。
切り取った文字列は細長いのですが、印刷設定がA4になっています。
















上の右から二つ目の[プリンター設定]を開いて、プリンターを選択。
[基本設定]⇒[用紙サイズ(一番下までスクロール)]⇒[ユーザー定義サイズ]
でめくりサイズに幅と長さを設定。(今回は210×1091mm)
ついでに[印刷品質]を[きれい]に。
















おお!いけそうではありませんか。
印刷サイズで[用紙の大きさに合わせる]で自動調整してくれます。
しかしこのモードは印刷位置の微調整ができません。
[用紙の中央に配置]だと下に余白が出来ます。
もう面倒なのでひっくり返しました。
プレビュー画面を一旦抜けて、90°回転ボタンを2回押して
















うん「それらしく」なりました。まあこれで良しとしましょう。
いきなりやったのに上手くいきました。

印刷位置を微調整をしたい場合は、倍率指定モードになります。
画像の倍率をここでは細かく指定できず、②のスナップショットの倍率によっては
枠からはみ出してしまいますが、編集画面に戻ってリサイズすれば
ぴったり収まる大きさに調整できます。
この作業は思ったほど手間はかかりませんので気になる方は。

また文字間隔の調整は後からはできませんので、
①の入力時にしなくてはなりません。

④印刷時の注意
後ろから紙を差せるタイプのプリンターであれば問題ないのでしょうが、
前から紙を入れて前から印刷物が出てくる複合機タイプのプリンター(EP-802)
では紙詰まりが何度か起きました。これを避けるには、

1、できるだけ印字部分が最初に来るようにすること。
  (無印字部分が最初にあると、印字箇所まで勢いよく紙を吸い込んで詰まる)
2、プリンターに紙を差し入れるとき、紙の反りに注意すること。
  (切って丸まった模造紙は凹状面を上にして差す(EP-802の場合)。凸面が上だと詰まる)

同様のタイプのプリンターをお使いの方は参考にしてください。

これでめくり作製法の説明はオシマイです。
今回紹介しましたのは、単に「画像に変換、加工して印刷」というだけのものですから、
もうすでに知ってらっしゃる方からすれば、何でもないものなのでしょうが。
①で入力した文字を高解像度のディスプレイで表示して、
画面をコピー(Fn+PrntScrキー)すればもっと早く出来ますね。

ともかく、めでたく印刷できましたのが、コチラ。




















模造紙切り分けから印刷終了まで30分程度。
2枚目以降はさらに速く出来ました。
この手のソフトを扱ったことが無い方ですと、
導入も含めて時間がかかるかもしれませんが、
作業そのものに専門的な知識がいる箇所はありません。

必要なもので無料で手に入りにくいのは、寄席文字のフォントとプリンターでしょうか。
まずは一度お持ちのプリンターの「ユーザー定義サイズ」を調べてみてください。
エプソンのA4タイプのビジネスプリンターであれば導入コストは低く出来ます。

私は現在あらかじめ演目を決めていることが多く、
ほとんど一人で出ているので落語の演目のめくりも作ってみました。




















めくりは紙でできている以上デリケートに扱うべきものです。
ただ自分がそのつもりでも、行った先でいつもそのように扱われるとは限りません。
紙製であるが故に破損しやすく、気がついたら汚れてた、破れてたなんてことも。

「近々めくりがいるのにどうしよう?」「手書きはなかなか…」
そんな方にこの記事がお役に立てば幸いです。
(…そんなに需要はないかなあ)

長文の記事にお付き合い頂きありがとうございました。

2014年10月31日金曜日

「めくり」問題はこれで解決!(プリンター編)





















寄席や演芸場に行くと(採用していないところもありますが)、
出演者の名前が書かれた紙が、木製の台に掛けられて舞台の脇に置いてあります。
複数の演者の名前が出番順に綴じられており、出番が来る度に紙がめくられ、
誰が舞台に上がっているのかを示します。

この演者の名前が書かれた紙を「めくり」といいます。またそれを綴じる台がめくり台です。

アマチュアの落語会や子供落語などでも
「雰囲気が出る」「演者のテンションが上がる」
などの理由で需要のあるアイテムです。

ところが、このめくりは作るのがなかなか大変。

完全自作するとなれば、寄席文字の練習からしなくてはなりませんし、
書き上げるのにはある程度時間がかかります。
もっともそこから入るのが大事なのかもしれませんが。

まあ今日明日必要ということになれば、印刷するより方法が無さそうです。
ところがプリンターで印刷しようにも家庭用のプリンターはA4サイズ。
A4に印刷して張り合わせるというのも、あまり見栄えがよろしくない。
「それらしく見える」というのは案外大事なことだと思います。

かといってそのために大判プリンターを買うというのもなかなか。
場所もとりますし。

うーん、これは困った。時間的にも懐具合にもやさしい手段は無いものか。

そういえば印刷領域はユーザー定義できるはずなので、
もしかしたらと試しに手持ちのプリンターを調べてみました。
A3印刷の出来るブラザーのMFC-J6510DWのプロパティを調べてみると














幅は287㎜と申し分ありませんが、高さ(長さ)が最大431.8㎜とめくりとしては短すぎます。

もう一台、エプソンのA4複合機EP-802Aもチェックしてみます。
A3プリンターで駄目なのだからまあ無理だろうと見てみると…

[プリンターのプロパティ]⇒[基本設定]⇒[用紙サイズ(一番下までスクロール)]
⇒[ユーザー定義サイズ]と進むと、












おお!用紙長さ1117.6㎜との表示が!これはいけそうです。

調べてみるとエプソンのプリンターは、この長さまで印刷できるものが多いようです。
低価格のビジネスプリンターなどネットで見られる仕様書からも確認できます。
(全てのプリンターが印刷できるわけではないようですから、ご購入の際はご注意を。)

よしよし。

さてそれではめくり製作開始です。
まずは模造紙(788×1091mm)を買ってきます。
ちなみに私が在住している愛知県では、模造紙のことを「B紙」と呼びます。
というかB紙と言わないと通じません。
(皆さんは文房具屋さんで押し問答をしないように…)

艱難辛苦して手に入れた模造紙(B紙)を切り分けます。
用紙幅は215.9mmが限界。ギリギリにするのもコワいので、
(210×1091mm)にカット。A4の紙と丁度同じ幅ですね。

さあ印刷するぞとワード(office2007)を起動し、
縦書き入力にして、勘亭流フォントで「背中家腰楽」と入力。用紙サイズを変更しようとすると、











なんと、ワードでは用紙の長さが558.7mmまでしか設定できません。
意外な伏兵。こりゃ困った。


印刷の拡大縮小でなんとかなりそうなので、
四分の一サイズで(105×505mm)でやってみたのですが、
そもそも文字位置の調整がうまくいきません。

余白の設定を0にしても、文字を大きくすると
こちらの画像のように字が左に寄ってしまうという仕様。

文字サイズをある程度小さくすれば真ん中におさまるのですが、
余白が多いというのはどうもよろしくございません。

印刷後にカットすればそれだけ小さくなってしまうし面倒。
この辺うまくやるテクニックがあるのかもしれませんが、
アタクシは御存知ないときている。

この余白をどうにかしないと、
「それらしい」めくりは出来そうにありません。



さてさて暗礁に乗り上げてしまった「めくり」製作。無事に印刷はできるのでしょうか。
ちょいと長くなりましたので(印刷編)は次回の講釈。


2014年10月4日土曜日

10月の落語講座のお知らせ

10月15日(水)、10月16日(木)は
背中家腰楽の落語講座がございます。

先月の演目は「今戸の狐」、

いっぱいのお運びありがとうございました。

このお話では、会話の中で使われる言葉が音は同じでも意味が違うことから、
誤解が次から次へと生まれていきます。

「(お金を)こしらえる」と言っているのを
「(今戸焼の狐を)こしらえる」ととらえてしまうという具合。

ところが不思議と会話そのものは成立しており、
お互い勘違いに気が付かないまま、どんどんお話が進んでいきます。
わかっているのは観客だけという、
落語「付き馬」の終盤のやり取りとよく似たところがあります。

暢気で楽しいのでワタクシも大好きなお話。

ただこの落語は皆様の前でやる上で、
「符牒」という、いわゆる業界専門用語についての
説明が必要不可欠。
ここはどうしても省くことが出来ません。

こういう「説明」が冗長にならずに、逆にお話に入り込めるようにする工夫は、
時代によって更新し続けねばならないところです。

符牒や裏話について、ただその話をしただけでは、
予備知識のない方は置いてけぼりにされてしまいます。

「伝わらなくても良いんだよ」
or
「きっちりやれば伝わるはず」
と威勢の良いこと言ったところで、
その一回で見限られたらオシマイなわけで。
より楽しんで頂くためのアップデートは欠かさないようにしたいものです。

今回は講座終了後に、お話の中で取り上げられる
江戸時代の博打「きつね」をお楽しみイベントとして行いました。


















博打「きつね」のルール

『親は三つのサイコロを入れた壺皿(カップ)を伏せます。子は1から6の目に賭けます。

三つのサイコロの内、賭けた目と一つ合っていた場合、二つ合っていた場合、
三つ合っていた場合、で配当が違ってきます。
もちろん合っていた目が多いほど多くなります。
例えば「2」に賭けて目が「2・2・2」だった場合は、賭けた元金+4倍の金額がもらえます。』

金張り銀張りと豪華に(チョコレートですが…)。

大変な盛り上がりをみせまして、皆様にお楽しみ頂けたようです。

この手の遊びをするときに注意すべきことは、
それを目的とした会費を徴収しないことと、
景品を主催者がすべて用意することでしょうか。

とにかく町内会のビンゴゲームと同じレベルに持っていくことです。
(解釈の仕方によっては違法性を問うことも可能でしょうが、)
誰かが損をする仕組みにしなけばよっぽど後ろに手が回ることはないかと。
念のため。

さて、今月の講座は、
随所にちりばめられたクスグリも面白く、
登場人物がみな正直で気持ちが良い、とされております落語。

これだけでわかる人にはタイトルがわかってしまいますね。

背中家腰楽の落語講座では
「落語はちょっとむずかしそうで…」という方も、
「あらかた知っているよ」という方も、
よりお楽しみ頂けるように
レジュメ、プレゼンテーション付きの落語をやらせて頂いております。


楽しいお話ですのでどうぞご期待ください!

10月15日(水)はJR岡崎駅より徒歩五分
様々な講座を開催しているこちらで。

場所  暮らしの学校 (JR岡崎駅徒歩5分)

日時  10月15日(水) 10:30~11:30

電話  0120-511-533

WEB  暮らしの学校(講座ページ)


10月16日(木)は、1階は特製自家焙煎コーヒー店、
2階は「ナマケモノ大学」を開催しているコチラにて


場所  喫茶スロース (JR蒲郡駅より徒歩1分)

日時  10月16日(木) 20:00より 

電話  050-3598-6745

WEB  http://ameblo.jp/slothcoffee/

2014年9月27日土曜日

配当編の訂正

サイコロ博打「ちょぼいち」について、
ネットで調べてみると「4倍もらえる」という意味が、前回記事の(配当編)で説明した、
4倍配当の意味で使っている人と5倍配当の意味で使っている人が両方いらして混沌状態。

様々な資料を調べた結果、
前回記事の中で「4倍配当」としているところを「5倍配当」に訂正いたしました。

また正確な記事を書くために時間がかかりそうでして、
このシリーズはちょっとお休みとさせて頂きます。

ゴメンナサイ。


2014年9月19日金曜日

「今戸の狐」で考える確率の計算(配当編)

前回の落語講座は「今戸の狐」でした。

このお話の中にサイコロを3つ使った博打「きつね」が出て参ります。
(博打そのものの場面は描かれませんが)
講座では演目終了後、皆様に「きつね」を体験していただきました。

もちろん景品は当方で全て用意しておりますので、
手が後ろに回ることはございませんからご安心を。念のため。

江戸時代に庶民の間で流行ったとされるのが、この「きつね」と
「ちょぼいち」というサイコロを一つ使った博打です。

まずは「ちょぼいち」がどんなルールだったのかご説明。

「親」が壺と呼ばれる、籐や竹で編んだ器の中でサイコロを一つ振り、
「子」はどの目が出ているのか当てるというもの。
当たれば賭け金の5倍の配当がもらえ、外れれば賭けた金は親に全額没収。
というルール。

ここで「配当」という言葉が出て参りました。
「5倍の配当」と言った時に、もらえるお金が
A:賭け金も込みでの5倍の金額
なのか
B:賭け金+5倍の金 
なのかがわからない、という方もいらっしゃるのではないのでしょうか。

つまり100円賭けて当たったときに手元に戻ってくるのは
A: 100×5=500円
B: 100円+500円=600円
A、Bどちらなのかという話です。

「4倍もらえる」なんて言った場合も、
どちらの意味で使っているのか判然としません。
この「配当」という言葉、ギャンブルの世界では、
Aという意味で使っている人もいれば、Bという意味で使っている人もいます。

A方式は日本の競馬などの公営ギャンブルにおける方式です。

例えば100円で馬券を買って配当(オッズ)が3倍だとすると、
当たったときの払戻金は300円になります。
つまり馬券を買った元手(100円)は戻って来ない、「配当金」=「払い戻し金」のパターン。
例に挙げたA、Bどちらの方式かといえば、Aですよね

ここでちょいと昔話を。

その昔アタクシが小学生の頃、「クイズダービー」というクイズ番組がございました。
司会は大橋巨泉さん。
一般人の出場者が5名の解答者の中からクイズに正解すると思う解答者1人に
自分の持ち点(最初の持ち点は3000点)から任意の点数を賭けていき、
最終的には10万点を目指す、というものでした。
このとき解答者によって点が増える倍率が違うという設定。

当時の解答者は、はらたいら、篠沢教授、竹下景子+2名といったメンバー。
苦手な問題の多い篠沢教授は6倍、
正答率が極めて高いはらたいらさんは2倍、
三択の女王(古い!)竹下景子さん3倍といった具合。

例えば出場者が持ち点3000点の状態で、3倍の竹下景子さんに500点賭けたとします。
竹下さんが不正解のときは、外れとなって持ち点から500点引かれ2500点になります。

正解した場合はどうなるかというと、出場者の持ち点は3000点から4500点に増えます。
賭けた500点はそのまま残って、+3倍(1500点)という計算。
これは先程例に挙げたA,Bどちらの方式かといえばB。
カジノなどで用いられる海外方式といえます。

とにかく日本の公営ギャンブルとは違う方式。
当時クイズダービーを見る度に2つ年上の兄(当時小学生)は
おかしいおかしいと首をひねっていました。
「混乱する人が出るからクイズダービーはケシカラン!」
と兄は大学生になってからも憤慨しておりましたが…

まあとりあえず言葉の意味を決めておかないとわかりにくいので、
このブログでは「5倍配当」といったら、先にご説明したA方式、
「100円賭けて当たった場合に、手元に戻るのは500円」
と定めて、お話を進めていきます。

ちょいと長くなりましたので、本日はこれまでといたします。
「ちょぼいち」の確率についてはまた次回の講釈。

2014年9月7日日曜日

9月の落語講座のお知らせ

9月17日(水)、9月18日(木)は
背中家腰楽の落語講座がございます。

先月の演目は「お化け長屋」、いっぱいのお運びありがとうございました。

このお話、実際におばけが出てくるわけではありません。

家主と折り合いの良くない長屋の住人が、
長屋の空いている貸家に誰も引っ越してこないよう、
家を借りたいという人に幽霊が出るというでっちあげの
怪談話をして追い返そうという話の筋。

とにかく暢気で私も好きなお話。

このお話の重要なポイントとして、
怪談における「講談調の語りのパロディ」があるのですが、
講談の語りがどういうものか、という共通認識が失われつつある今、
パロディとして受容されないことを演者は覚悟しなければなりません。

この辺りどのように表現するか頭を悩ませるお話です。

現代風に稲川淳二調でやるという手もあるのでしょうが、
嘘の怪談部分が本当に怖くなりかねません。
そうなると話が変わってしまいます。

「こういう前提で話をやります」
とマクラで説明することで、改めて認識を共有して頂くわけですが、
このとき冗長にならないことが大事でして。
今回はプレゼンがうまく機能したと思っております。

いずれにせよ「きっちりやれば伝わるはず」
では今の時代やっぱりムズカシイ。

今回初めてお越しになった方から
「落語の『はなし』が、なぜ口に新しいと書いて『噺』なのか解りました」
とうれしいお言葉をかけて頂きました。

口から出る言葉が陳腐化せずに「噺」となって届くかどうか。
落語ファンの方にも、初めてご覧になる方にも
失礼のないようにやっていきたいなあと。

…また、ちょいと伝わりにくい
ややこしい語りをやらかしたところで講座のお知らせ。

今月の講座は、江戸時代の落語家の暮らしが描かれた異色の落語。

博打や業界にまつわる符牒といった、
いわゆる裏話的な話題も満載のお話でございます。
知っている方にはもうこれだけでタイトルわかってしまいそうですね。

今回は好評頂いている「リアル富くじ」にならって、
「リアルきつね(サイコロ3個使う遊び)」を開催予定です。
手が後ろに回らない形のものですので御安心を。

背中家腰楽の落語講座では
「落語はちょっとむずかしそうで…」という方も、
「あらかた知っているよ」という方も、
よりお楽しみ頂けるように
レジュメ、プレゼンテーション付きの落語をやらせて頂いております。



9月17日(水)はJR岡崎駅より徒歩五分
様々な講座を開催しているこちらで。

場所  暮らしの学校 (JR岡崎駅徒歩5分)

日時  9月17日(水) 10:30~11:30

電話  0120-511-533

WEB  暮らしの学校(講座ページ)


9月18日(木)は、1階は特製自家焙煎コーヒー店、
2階は「ナマケモノ大学」を開催しているコチラにて


場所  喫茶スロース (JR蒲郡駅より徒歩1分)

日時  9月18日(木) 20:00より 

電話  050-3598-6745

WEB  http://ameblo.jp/slothcoffee/

2014年8月8日金曜日

8月の落語講座のお知らせ

8月20日(水)、8月21日(木)は
背中家腰楽の落語講座がございます。

先月の演目は、子どもが出てくるお話、「転失気」と「雛鍔」でした。
落語には子供が中心となって物語が進行するものがいくつかあります。

「佐々木政談」「真田小僧」など、
ませた子供が出てくるものが多いのですが、
お話によって「小賢しさの度合い」は違います。

お客さんが不快にならない言葉の取捨選択が
今の時代は大事なんじゃないかと思います。

こまっしゃくれてはいるけれど、どこか憎めない。
そこを外さないように日々更新しなくてはいけないなあと。

「楽しくやってもふざけちゃいけない」という
境界の見極めが肝心なんじゃないんですかね。子どもの話は特に。

さて今月の講座は夏らしく幽霊にまつわるお話。
落語で幽霊なんていうとギョッとする方もいらっしゃるかもしれませんが、
実は怪談も落語の一ジャンルだったりします。

今回のお話は怪談ではありませんが、
「おばけ」なんて言葉が生きていた時代の大変のん気で楽しいお話です。
ご期待ください!

背中家腰楽の落語講座では
「落語はちょっとむずかしそうで…」という方も、
「あらかた知っているよ」という方も、
よりお楽しみ頂けるように
レジュメ、プレゼンテーション付きの落語をやらせて頂いております。


8月20日(水)はJR岡崎駅より徒歩五分
様々な講座を開催しているこちらで。

場所  暮らしの学校 (JR岡崎駅徒歩5分)

日時  8月20日(水) 10:30~11:30

電話  0120-511-533

WEB  暮らしの学校(講座ページ)


8月21日(木)は、1階は特製自家焙煎コーヒー店、
2階は「ナマケモノ大学」を開催しているコチラにて


場所  喫茶スロース (JR蒲郡駅より徒歩1分)

日時  8月21日(木) 20:00より 

電話  050-3598-6745

WEB  http://ameblo.jp/slothcoffee/

2014年7月8日火曜日

7月の落語講座のお知らせ

7月16日(水)、7月17日(木)は
背中家腰楽の落語講座がございます。

先月のお話は「王子の狐」でした。
「きつね、たぬきは人を化かす」そんな言葉が生きていた時代の、たいへんに暢気なお話。
そういえば昔「平成狸合戦ぽんぽこ」なんてアニメもありました。

『狐が若い娘に化けるところを目撃した男。
だまされている振りをして、娘に化けた狐を連れ料亭「扇屋」へ。
さんざん飲み食いした挙句、酒に酔った狐を置きざりにして、
男は先に帰ってしまうのだが…』

このお話は実在した料亭「扇屋」が舞台なのですが、話の中で、
店の看板商品の玉子焼きを始め、料理やサービスを褒めます。

実はこの落語、昔からあった話が幕末から明治にかけて
「扇屋」の宣伝用に作り変えられたものだとも言われています。
CMの要素もある落語があったなんてのも興味深いですね。

今で言えばドラマの中でスポンサーの商品が使用されるのと同じでしょうか。

ちなみに扇屋さんは現在料亭としては営業しておりませんが、
自慢の玉子焼きを販売をしています。

通販もしているお店のホームページのトップには
「落語の王子の狐の舞台でもある老舗の味」
とあります。

150年経った今も謳い文句として宣伝効果は生き続けているとは…
宣伝落語おそるべし。


さて今月は子供が出てくるお話。
落語に出てくるのは一筋縄ではいかない
こまっしゃくれいて、知恵(悪知恵)の働く子供でございまして。

楽しいお話です、ご期待ください。

背中家腰楽の落語講座では
「落語はちょっとむずかしそうで…」という方も、
「あらかた知っているよ」という方も、
よりお楽しみ頂けるように
レジュメ、プレゼンテーション付きの落語をやらせて頂いております。


7月16日(水)はJR岡崎駅より徒歩五分
様々な講座を開催しているこちらで。

場所  暮らしの学校 (JR岡崎駅徒歩5分)

日時  7月16日(水) 10:30~11:30

電話  0120-511-533

WEB  暮らしの学校(講座ページ)


7月17日(木)は、1階は特製自家焙煎コーヒー店、
2階は「ナマケモノ大学」を開催しているコチラにて


場所  喫茶スロース (JR蒲郡駅より徒歩1分)

日時  7月17日(木) 20:00より 

電話  050-3598-6745

WEB  http://ameblo.jp/slothcoffee/

2014年7月4日金曜日

あなたの「わらい」はどう書きますか?

政務費の不正使用疑惑に対する兵庫県議の釈明会見が
この二、三日ネットやテレビを賑わしています。

私のTwitterのTLにも「大変に笑えるもの」として情報が流れて来ました。
中には「痛々しくて見ていられない」という意見もありました。

連れ合いと動画で会見を見てみると…
大の大人がしかも県会議員があられもなく小学生のように
喚きしゃくり上げ、訳のわからない奇声を発していました。

クスリとも笑えません、というよりギョッとしました。
そしてすぐにこの人は医師や専門家による適切な「助け」が
必要な人なんじゃあないかと感じました。

まあ笑う要素があるとすれば、
こういう人が議員さんに選ばれる国に住んでいる、
というところでしょうか。

もちろん「つい笑ってしまう」ということはあります。
そういう人が大半だとは思うんです。

ところが、これ以上ない笑いとして楽しんでいる人もいます。
お笑い芸人が彼の会見を「笑い」として高く評価していたり、
TVではモノマネをしたり、ネットでは早くも二次創作が出回っている様子。

でもですよ、
芸人がああいうキャラクターを思いついてコントをしているわけではないんです。
少なくともあの県議は「見世物」として会見を開いてはいません。

珍しいもの、普通の人ができないことをする人、
つまり世間一般では見られないたぐい稀な人間は「見世物」になれます。
見目麗しいこと、見た目が珍であること、美声、
饒舌な語り口、深みのある人間的な魅力、
見世物としていずれもゼニが取れます。

それが芸人であるならば問題はありません。ゼニを取ればいいんです。
そこには見世物に「なる人」と「見る人」の間に合意がありますから。
ただ彼は芸人でもなければ見世物になることを望んでもいません。

私が中学生の時、ある教師が竹の棒で生徒の頭を
ことあるごとに叩いていました。
一人の子がよく標的にされていました。
その子はじっとしていられない理由のある子でした。
叩かれると普通の子とは違う動きで大きく身をよじり痛がりました。
その教師はゲラゲラと笑っていました。
それを見て笑っている生徒もいました。

私は笑いませんでした。
しかし教師に腹を立てる一方で恐くもなりました。
自分もこういうことでひょっとすると笑ってしまう事あるんじゃないか、
自分の中にもそういう蔑みの成分を含んだ笑いがあるのではないかと。

「反応」だけを見て小馬鹿にして嗤うことをよしとするのならば、
これはいじめにもつながると思うんです。

落語には与太郎という登場人物がいます。
「馬鹿で与太郎」というぐらい間抜けな役回りで、
へまをしたりみんなから馬鹿にされたり。
観客も馬鹿だなあと笑うわけですが、話の中には、
実は与太郎が物事の本質を一番とらえている
価値観が反転するような話もあります。→(中国化する日本で読み解く大工調べ)
こういうとき自分が笑っていたことの中身を自覚させられて
ちょっとコワくなったりします。

確かに自分の「好き」や「笑い」の中身をみつめるのって大変なことかもしれません。
それは自分の中にある醜い欲望や蔑む心と向き合うことでもあるのですから。
でもやっぱりそこから始めるしかないんじゃあないのでしょうか。

はずみで笑ってしまう事はあります。
でもそのあとで、ほんの少しでもよいので、
その「笑い」は自分に向けられた時も「笑い」でいられるのか
を考えてみて欲しいんです。

わらいは楽しい。
わらいはコワい。
だから大事なんです。